成蹊医会

平成28年度成蹊会プレメ同窓会、講演会

平成28612日(日)に吉祥寺第一ホテルに於いて、成蹊大学医歯学進学課程(プレメ)同窓会総会、及び講演会が行われました。

今年の特別講演として元歌舞伎座支配人金田栄一氏による「楽しい歌舞伎の世界」が行われました。難しいと思われがちな歌舞伎の内容を分かりやすく、楽しく解説して頂きました。講演内容を、講師著書「これが歌舞伎だ!」を参考にしながら纏めてみましたので、少しご紹介致します。


◆歌舞伎は役者にご注目◆

歌舞伎をこれから見ようという人には、先ず役者をみてくださいとお伝えしています。歌舞伎は中身が難しいというイメージがあり、解説者もストーリーを語ることが多いですが、歌舞伎は役者を中心に出来上がっている舞台演劇なので、まずは役者を見てください。

世界にはギリシャ悲劇やシェイクスピア劇等たくさんの舞台芸術がありますが、ほとんどは作品を通じて宗教観や倫理道徳観、作者の思想信条や主義主張などを伝えることが重要であり作品本位といえます。よって拍手も作品に対しての拍手であり、作品終了時に沸き起こるのが通常です。歌舞伎のように、役者が登場しただけで拍手や掛け声が沸き起こることはありません。一方、歌舞伎は世界でも珍しい役者本位の演劇であり、ストーリーも役者に都合よくできています。歌舞伎は客の木戸銭によって成り立ってきた大衆芸能であり、西洋の演劇は宮廷がスポンサーになって成り立ってききたという違いがあります。よって、歌舞伎の拍手は役者に対しての拍手であり、作品終了時はあっさりしており、西洋のようなカーテンコールはありません。

◆かぶく・傾く◆

かぶくという言葉は、人並み外れて奇抜で異装であるという意味でつかわれていました。戦国時代末期から江戸時代にかけて出現した「かぶき者」は、奇抜な身なりや言動で自己主張し、流行の先取りをしていました。

慶長八年(1603)、徳川家康が江戸幕府を開いた年に、出雲阿国(いずものおくに)と称する出雲大社の歩き巫女が京都四条河原で踊り始めました。その官能的で奇抜な踊りが「かぶきおどり」と呼ばれ、これが現代につながる歌舞伎の始まりとされています。

しかしながら、踊りが官能的であった故に、その人気にあやかった遊女の歌舞伎などが次々と現れ、風紀上の問題から女歌舞伎は禁止されることになります。やむなく男性が女方を演じる形が出現したという経緯もあります。また官能的な踊りばかりを見せるのでなく、ストーリーを重視した芝居をすることが義務付けられましたが、このような規制が、逆に歌舞伎を後世に残る本格的な演劇へと発展させました。歌(うた)・舞(まい)・伎(わざ)と、歌舞伎の内容をよく表しており、これほどよくできた当て字はないと言えます。


◆歌舞伎はおとぎ話◆

歌舞伎には歴史上の有名人がよく登場しますが、歴史物語を忠実に伝えているものはまずありません。江戸時代は実在の武家社会を芝居にすることが禁じられていたのです。よく登場するのは源義経や曽我兄弟といった平安・鎌倉時代の英雄ですが、舞台上には江戸時代の風情や人々が登場し、江戸時代の話にすり替えられていたりします。

助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)の主人公助六はいかにも江戸っ子の代表格で、江戸の吉原に夜な夜な出没し、相手かまわず喧嘩を吹っ掛けますが、この助六は実は曽我五郎で、父の敵を討つために名刀を探し求め、喧嘩を仕掛けて相手に刀を抜かせるという話になっています。

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)は、菅原道真のお話で、平安時代のはずですが、舞台設定に寺子屋が出てきます、寺子屋は江戸時代中期のものですので、平安時代と江戸時代が混在しています。

いろいろな時代背景の物語を江戸の風俗の中で自由に描いてしまう、歌舞伎は根本的におとぎ話です。


◆世界に広まった舞台機構◆

歌舞伎の代表的な舞台機構に花道、セリ、廻り舞台がありますが、これらは歌舞伎で考案され、世界に広まったとされています。

花道は舞台から客席を貫くように伸びている通り道で、ここから人物が登場したり引っ込んだりするため、観客との一体感が生まれ、観客を巻き込んだ素晴らしい立体空間が生まれます。この機構は海外の舞台に見られず、役者と観客が一体になって発展してきた歌舞伎独特の機構といえます。

花道の途中で、役者が必ず立ち止まるところがあります。舞台と揚幕の七分三分の位置にあり、「七三」と呼ばれます。七三に登場人物が立ち止まると、明らかにこの花道上の人物が際立って見え、電気照明などない時代でも、まさにスポットライトが当たったように見えました。

花道は通常客席の下手に設置されますが、反対側の上手にも設置されることがあり、両花道に登場人物が並ぶと、まさにステレオ効果となり、世界で初めてステレオ効果を考案したのはもしかしたら歌舞伎かもしれません。

「廻り舞台」も歌舞伎が世界に先駆けて考案したとされています。現在では電動ですが、もともとは奈落で人力で廻していました。廻り舞台の一般的な使い方は、舞台の裏側に次の場面を作っておき、場面転換を早くするものですが、裏表ばかりでなく、三方飾りにして更に効率よくしたり、元の場面に戻るという演出もあります。

「セリ」も廻り舞台と同様、歌舞伎発祥の舞台演出です。芝居中に建物や人物を登場させたりひっこめたりと異次元的な効果をもたらします。花道の七三のところに切られているセリをすっぽんと呼び、これは動物の化身や亡霊、忍術使いなど、普通の人間ではないものに使われます。


◆隈取、衣装◆

歌舞伎には独特な化粧や演技法があります。隈取は元禄時代の市川團十郎が考案したもので、白塗りした顔に赤や青の筋が描かれており、様々な種類があります。赤い隈取は荒事に登場するスーパーヒーロー役が典型で、血管が浮き上がったようにも見えて、超人的な力強さや激しい怒りを表現したものです。現代ならこのような演出はCGを使えば簡単にできるでしょうが、科学的手法が何もない時代に考案されたのですから、数百年も時代を先取りしていたといえるでしょう。一方、青い隈取は、悪の大物という役どころに使われます。平たく表現すれば青筋が立っているといったところでしょう。茶色は「土蜘」などで使われ、人間ではない動物の化身を表しています。赤い衣装はお姫様を表し、たいていは一途になって周りが見えていません。紫の衣装は身分が高い人を表します。ボロボロの服を着ていても、紫色であれば観客には身分が高いことが分かります。緑色は田舎娘、黒や茶は悪役、浅葱色は正義感あふれる役、と決まっており、登場しただけで正義か悪かがわかり、ここに例外や意外性はありません。

◆文様と柄◆

歌舞伎は洒落にあふれています。舞台や衣装の文様は語呂合わせなどになっており、どれも洒落ています。寿の字海老や寿の字蝙蝠、三つの枡を合わせた三枡、鎌と○とぬを合わせて「構わぬ」、菊五郎格子は立て4本横5本の格子縞の中に「キ」と「呂」を置いて「キ九五呂」と読ませる等、みなとても洒落ています。

≪構わぬ≫          ≪菊五郎格子≫


また、外題も洒落が効いています。「仮名手本忠臣蔵」の「仮名手本」とは、いろは四十七文字のことで、これで討ち入り四十七士を表しています。大石内蔵助は大星由良之助という名前で登場しますが、これは、現実の武家社会を演じることが禁じられていたためで、明らかに誰もがわかってしまう内容ですが、建前上名前を変えれば許されるという寛容さもあったようです。

「伽羅先代萩」(めいぼくせんだいはぎ)は仙台藩の伊達家騒動が題材ですが、舞台を鎌倉にし、殿様は足利の殿様という設定にされています。伽羅は、伊達綱宗が伽羅という高価な香木で作った下駄を履いていたことを表していますが、伽羅と書いて銘木と読ませるあたりが、いかにも洒落ています。先代は仙台を表し、萩は仙台の名花です。鎌倉という設定にも関わらず、伊達家の家紋である「竹に雀」を襖絵など、いたるところに使われており、実際には一目瞭然仙台藩の話であり、誰も鎌倉の話だとは思わなかったでしょう。

また、話の内容も必ずしも史実に忠実ではなく、役者に都合がよいように書き換えられており、辻褄の合わないことが日常茶飯事です。歌舞伎を観るにあたっては、史実と違う、辻褄が合わないなど、考え込まないことが大切です。

歌舞伎を楽しんでください。

【講師ご略歴】

講師:金田 栄一氏

立教大学卒、松竹に入り演劇部に属す。歌舞伎座に勤務し、宣伝部課長から歌舞伎座支配人、歌舞伎座舞台(株)社長などを歴任。現在は放送大学非常勤講師など、主に歌舞伎関連の講座および執筆に務めている。NHKラジオ講座の教本「これが歌舞伎だ!」〈NHK出版〉が好評発売中。

後列 塩田様(成蹊会)谷岡様(成蹊会)吉益様(成蹊会会長) 杉浦先生 上村先生 中村先生 進藤

中列 中村(喜)先生 中村(昇)先生 磯部先生 村瀬先生 寺田様 増山先生

前列 北村先生 嶋田先生 金田氏(講師) 赤羽先生 本田先生

プレメ同窓会は昭和24年~昭和37年成蹊大学医学歯学進学過程の同窓会です。

毎年著明な方の御講演もあり、また大先輩方の貴重な体験談等も聞くことができ、毎年参加させて頂いております。歌舞伎は全く知らない世界でしたが、私もこれを機に一度歌舞伎座に足を運んでみようと思っています。

成蹊医会 事務局

高35 進藤幸雄