静岡市障害者歯科保健センター 服部清
私の職業は、歯科医師です。専門は「障害者歯科」です。先生方はこの言葉をご存知ですか?障害者専門の歯科であることは、名称から見てお分かりだと思います。障害者といっても、本当に様々です。知的障害、発達障害、身体障害、内部障害、精神障害、それらの重複障害などあります。
我々が専門にしているのは、「特別な支援を必要とする全ての人」が対象となる歯科全般を差します。私の診療所では、生まれたばかりのダウン症の赤ちゃんの離乳の進め方の支援から90歳の認知症の方のむし歯の治療まで、さまざまな障害のある方々を診察しています。「障害者内科や障害者外科などない。誰でも診るのが当たり前だ」といわれる先生方もいらっしゃるかと思いますが、一般の歯科医院で障害者が治療を受けることは、困難です。
皆様も一般の歯科医院に通院されるとわかりますが、バリアフリーの診療所は、極めてないと思います。歯科以外の医療現場ではバリアフリーが当たり前ですが、歯科は段差があることが当たり前です。自閉症を主とする発達障害児者本人および家族に対する調査では、受診して困った医療機関のトップが歯科でした(2位耳鼻科、3位小児科、4位眼科、5位内科)、感覚過敏のある自閉症の方にとって、歯科の音や臭い、目の前を尖った金属の器材がチラチラする環境は、苦痛そのものです。恐怖のあまり、暴れてしまう方も少なくありません。
一般の歯科医院では、障害があるというだけで「うちでは診ることができない」と診察を拒否するところもあったようです。障害者もたいへんですが、いっしょに通院する家族も、大変な思いをして歯科へ受診しています。
障害者歯科は、障害のある方がよりよい歯科医療を受けるための診療科です。疾患や障害、全身状態を理解し、それらに対応した診療を行います。例えばダウン症の方は、歯が短く(短根歯)、エナメル質や象牙質のカルシウム含有量も低い方が多く、むし歯だけでなく歯周病(免疫の問題)になるリスクがたいへん高いといわれています。
心疾患の方も多く、処置を行う際には、感染性心内膜炎の予防も必要となってきます。自閉症の方であれば、予定が立たないことに不安が強くなります。言葉での説明が十分に理解できない場合がありますので、絵や写真を使って、これから行う治療の手順を示してから治療を行う必要があります(視覚的支援や構造化)。いきなり治療すれば暴れますので、慣れるためのトレーニングも必要です。
診療台に座ってくれるまでにかなりの配慮と時間が必要となります。障害特性を理解し、それに伴う歯科的な特性もふまえながら、診療計画を立てなければなりません。普通の診療所では対応困難で、全身麻酔をかけて歯科治療をしなければならない場合があります。そのため、障害者を専門に診る歯科診療所が地域に必要となってきました。現在全国に障害者歯科センターというのが存在し、歯科医師会が主に行政からの委託、補助金などで運営しています。
私の勤務先は、静岡市立で運営も市が行なっている公設公営の施設です。平成17年に開設されました。センターといっても歯科医師が1名しかいない普通の診療所です。しかも私の仕事は、診療所での歯科治療だけではありません。できるがきりむし歯や歯周病にならないことが、特に障害者では大切です。ライフステージ(小さいころから)ごとの歯科保健対策を行政の施策として行なっています。
また、障害者歯科や障害者の歯科保健の重要性を歯科医療従事者だけでなく、施設の職員、特別支援学校の教員、家族などに啓発も行なっています。また、それらの関係者と一緒に障害者の歯や口の問題について考えていけるよう地域連携も行なっています。ご興味のある方は、「静岡市障害者歯科保健センター」また、日本障害者歯科学会という団体もありますのでいずれかを検索していただき、ホームページをご覧ください。
最後にこのような機会を与えてくれた進藤幸雄先生に感謝したいと思います。