こんにちは。高校35期生の齋藤智博(通称レバノン)です。今回は私がニュースを担当させていただくこととなりました。四方山話でもと思いましたが、自分が選考している不妊症の世界について御紹介しようと思います。この世界は下手をすると人類をとんでもない方向へ向かわせてしまうので、いろいろな世界の方々が注意深く監視する必要があると思われるからです。
現在ART(高度生殖医療)は日々発展し、従来では妊娠不可能であった卵管機能障害や高度乏精子症の方々も挙児可能となりました。
不妊症を原因別に大きく区分けすると①精子の異常②卵子の異常③卵管の異常④その他(着床障害など)に分かれますので、①のうち乏精子症をのぞいた無精子症や④(器質的なものや免疫学的なもの)を除けば大抵のものは解決出来る様になったといえます。しかしながら、②卵子の異常に対しては未だに有効な治療が見つからないというのが現状です。つまり噛み砕いて言えば加齢による卵子の老化に対してはまだ有効な手段が見つかっていないということです。
2006年にMOLECULAR REPRODUCTION AND DEVELOPMENT 73:1448–1453 (2006)という雑誌にNuclear Transfer(核置換)という興味深い実験がなされています。マウスを使ったこの実験では別々のマウスではなく同一固体の中で古い卵子と新しい卵子を使う設定になっていますが、下図のようにコントロールを含めた5つのモデルケースのなかで古い細胞と新しい細胞の間で核を入れ替えたものに精子を受精させ、その受精率と分娩到達率を比較したものです。
結論から申し上げますと、新鮮な細胞の核を古い核に置き換える(Type C;古い核と新鮮な細胞質の組み合わせ)と受精率が90%(対照:古い核―古い細胞質の組み合わせ;Type A:4% 新鮮な核―新鮮な細胞質の組み合わせ;Type D:94%)まで達したということです。これを人間に応用すると、自分の遺伝子を持った子供を妊娠するために若い他人の卵子の細胞質をもらえば良いということになりますが、論文には続きがあり、Type Cの最終的な分娩到達率は4%まで下がったという結果に終わっています(即ち受精及び初期の卵割には細胞質が重要で、着床以降は核が重要ということになってきます)。
この結果は“健康な受精卵を得るためには結局若い卵子が必要”あることを意味しています。今年の受精着床学会では卵の分野で世界的に有名なオランダの教授がシンポジウムで“健康な児を出産するためには42歳と43歳の間には大きな壁がある”“あわよくば妊娠できたといても48歳における流産率は80%に達する”などとご講演されております。
結局、小生を含めた不妊治療従事者は難治性不妊患者に“妊娠し出産できるかも知れないという希望”をエサに多額の治療費(米国で約300万円、オーストラリアで100万円、日本では40-50万円)をまきあげているのが現状です(40歳台の実際の成功率は10%程度)。
この状況を打開するために現在米国で行われているのが、卵子(卵巣)の凍結保存です。結婚もしていない時から卵巣をフレッシュな状態で保存しておき、いざ妊娠したいときに利用するというやり方です。この研究は“がん治療を控えている患者の将来的な妊娠を保障する”という大義名分があるので、日本でも数多くの研究がなされているようです。さすが米国はいち早く商売に取り入れているようです。ただ受精卵と比べて卵子の保存は難しく、保存できたとしても妊娠―分娩まで到達するかどうかは不明ですが。
将来的にはEPS細胞の応用や体細胞の生殖細胞への代用など考えられる方法は多岐に渡りますが、どこまで行って良いかというモラルハザードは自分にもよくわかりません。目の前に困っている患者がいれば何とかしてあげたいと思うのが医師としての感情ですから。
幸いな事(?)に小生は勉強家ではないので、大いに遊び、たくさんの人間と会話をする事でバランス感覚を失わないようにしたいと考えております。成蹊医会の諸先輩からこれからも多くの事を教えていただけたらと考えております。
平成22年11月16日
齋藤智博
我が家の1卵生双胎です。DNAは同じでも性格は全然違う!?
これは自分が死んだ後にDNAを複製してクローン人間を作ったとしても、同じ性格になるとは限らないことを示しているのか。
中学高校時代の恩師、下村先生(会長黒川清先生の高校時代のクラスメートでもあるそう)です。35期生は毎年先生を囲んで同窓会を行っております。