報徳会宇都宮病院内科 茅野眞男
本原稿は宇都宮医師会誌西暦2019年正月号に掲載されたものです。
私は今、500床の精神病院で循環器専門医・総合内科専門医として働いています。総合内科専門医は全国で三万人いて、栃木県には400人います。まず総合内科専門医と現在議論されている総合診療専門医の違いですが、総合診療専門医はfamily medicine(家庭医)です。総合内科専門医は総合病院のgatekeeperとして大病院内科外来で診断を付けて専門家に割り振る、または専門家が居ない分野の治療をします。
精神病院に居る総合内科専門医には二つの問題があります。第一に診断がついても精神疾患があるので専門病院はなかなか受けてくれません。当院では消化器(中山)・呼吸器(石井)・循環器(茅野)の専門医がいて、感染症はその三人が治療します。神経と腎臓内分泌は非常勤医師がきますが、それ以外の分野は非専門家が対応しなくてはなりません。脳外科手術、骨折手術、膿胸治療は済生会病院やNHO栃木病院に送りましたが、血液・膠原病は治療に時間が掛かるので、大学病院といえども精神科疾患が完治していないと送れません。診断が“正しい”とお墨付きを貰っても、自分で治療するとなると複数の治療経験がないと出来ず、大変難しいです。
第二は専門医資格の5年おきの更新です。総合内科専門医は専門医のなかで唯一、試験(self training問題への回答)があり、講習に出席しているだけでは駄目なのです。大学や大きな総合病院と異なり、判らない問題を相談するにも周りに専門家が居ないのです。幸い最近の試験問題は、“長年の経験から常識的にはこれだろう”ではなく、“学会ガイドラインのどの頁に書いてあるか”に変わってきていから、インターネットを活用して回答していますが、いつも合格ライン60点のギリギリです。
精神病院と言っても、患者さんは高齢化し、認知症や脳血管障害の精神症状で入院しているかたも半分以上で、死亡する原因は誤嚥性肺炎、心不全を初め内科疾患ばかりです。平成28年は28人、平成29年は36人、自分の受け持ち患者が死亡しました。45年の勤務医生活で一番忙しい(充実している?)現状です。
斎藤「2017年から新専門医制度が始まりますが、そのことについてお聞きしたいと思います。内科と総合診療を選択するのはあまり違いがないように思えるのですが、いかがでしょうか?」
臺野「すごく良い質問ですね。2017年から始まる、新内科専門医と総合診療専門医の違いについてですが、扱う病気に関しては似通っているかもしれませんね。新内科専門医と総合診療専門医のプログラムの細かいところについては、議論している最中なので、あまり明確に提示はされていないのですが、新内科専門医については、内科の疾患に関して、かなり幅広く診ることを求められます。」
総合診療専門医については、今の家庭医療専門医を土台にして議論が進んでいますのでそれを前提に話をします(参考・「家庭医療専門医の認定に関する細則」)。家庭医療専門医は、ポートフォリオと呼ばれるレポートの提出が必要ですが、その項目を見ると、実は疾患に関する項目はそれほど多くありません。確かに幅広い疾患の知識も大事ですが、家庭医療専門医に求められる能力とは、「地域コミュニティをケアする能力」とか、「患者さんとラポールを形成する能力」、「EBMを用いて問題を解決する能力」や「生物心理社会モデルを用いて問題を解決する能力」施設外や他職種と連携をやったポートフォリオを出しなさいというような非常にユニークなところを専門的に求めています。地域医療をやる上でこれらの視点がないと上手く出来ないところです。
総合診療医の役割

斎藤 光里さん
斎藤「総合診療専門医は診断までを行うのでしょうか。それとも、治療もしっかり行うのでしょうか。」
臺野「総合診療専門医は、セッティングによって仕事の内容が変わります。例えば、当院は450床あり、それなりに各専門科も揃っている病院ですが、総合診療医は振り分けだけをやっているわけではなくて、病床を持って診療にあたっています。症例も肺炎から尿路感染症、ショック状態の患者さんもおり、きちんと入院で治療を行なっています。それでは、呼吸器内科の先生は何をしているかというと肺がんや間質性肺炎など複雑な症例を診ています。一般の市中肺炎や高齢者の誤嚥性肺炎などは総合診療医が診ています。 振り分けだけやっているのは、大学病院など特殊な病院だけだと思います。」
総合診療専門医、いまだ議論に
意見・要請(案)の内容的に最も議論になったのは、「総合的に診療できる医師を各都道府県で幅広く養成できる体制を整えること」について。その必要性は委員の皆が認めたが、その担い手は誰なのか、総合診療専門医の要否や果たすべき役割など、さまざまな議論が出た。
全国市長会会長で相馬市長の立谷秀清氏は、「全国市長会では、総合診療専門医は何か、という話が出てきている。初期研修が終わったら、総合診療ができるのが当たり前ではないか。総合診療専門医を作っても、混乱するだけ」などと問題提起。総合診療専門医を養成すると、それ以外の医師が「私は総合診療専門医ではないので、幅広い領域は診ない」といった事態に陥る懸念を呈した。
これに対し、山内氏は、米国の例を挙げ、総合診療専門医の必要性を指摘。他の委員からも、高齢社会を見据え、複数の疾患を診る必要性などから、総合診療専門医の重要性を強調する意見が相次いだ。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科地域医療人材育成講座教授の片岡仁美氏は、「総合診療専門医だけが地域医療を担うのではなく、総合診療専門医がリーダーとなり、他の医師と連携しながら、社会の要請に応えていくことが重要」とコメント。
参考人として出席した日本内科学会認定医制度審議会副会長の宮崎俊一氏は、内科領域ではこれまでサブスペシャルティにシフトしすぎだったとし、内科の専門研修では、ジェネラルを重視した3年間の研修を行うなど、内科領域でも総合的に診る医師の養成に取り組んでいると説明した。
羽鳥氏は、「来年度についてはこれから応募する人に混乱を招くので、このままやらせてもらいたい」とし、総合診療専門医の在り方は機構の中で今後議論していくとした。寺本氏は、今年度研修開始の専攻医数184人について、「まだまだ足りないという印象であり、総合診療専門医についてはきちんとした基盤を作っていくことが必要」と述べ、片岡氏の意見を支持し、「私自身、総合診療専門医は重要だと思っている。その必要数はこれから計算していくことになるだろうが、ある一定数の総合診療専門医がいて、各地域のリーダーになって動いていくのがあるべき姿」との認識を示した。