成蹊医会

歯もカラダの一部である~成蹊医会を通じ医科歯科のさらなる連携を

歯もカラダの一部である高島智仁 (高 35)

 現場の歯科臨床医を何年も続けて思うのだが、医科と歯科がこれまで 以上に連携を強化することができれば、もしかしたら、主に不定愁訴に 代表される慢性疾患で悩む多くの方たちの病状をこれまで以上に軽減出 来るのではないか、と常日ごろ考えている。もちろんすべてがすべてで はない。オペや高度医療治療が必要な場合は当然ながら除外される。
 ごく一般的な歯科治療においても、例えば抜歯行為やインプラント処 置などの歯科分野における外科処置においても、内科医との連携を深め ることにより偶発症のリスクを最低限にまで抑え安全に処置をおこなえ ることができる。最近では種類は限定されるが骨粗鬆症薬を服用中であったがために抜 歯後重篤な状況になってしまった、という事例が発生しこれは大きな話 題となった。
歯科用局所麻酔薬は血管収縮剤が含まれる劇薬で場合により血圧モニ ターや「血液をさらさらにするお薬」も事前の問診で知りえていなけれ ばばらない情報であり、糖尿病に関しては術後感染防止処置なども歯科 医が責任を持って対応しなければならない。また緊急時の高度医療機関 への滞りない連絡体制も事前に備えておかなければならない。歯科商業誌を拝読すれば歯科処置後の死亡事例は決して珍しいことで はないのも残念ながら事実である。

そもそも我が国では医科と歯科を同じ土俵で考えるといったこと自体 がナンセンスである。医科と歯科が互いを切り離し深い連携も持たずそ れぞれ独立、発展してきた歴史的背景を考えれば仕方がないことである。
しかしお互いそれぞれの最終目的は、専門の対象臓器、器官は異なる ものの病に苦しむ人体に対して治療を行い健康な状態へ導くこと、であ りこれは医科も歯科も共通しているものと考えている。そのためにも医 科も歯科も連携を深めお互いが協力できる環境ができればよいと考えて いる。
これにより行き場を失った患者さんに治療選択肢の1つを示す ことができるのであればそれは患者さんに治癒への希望の光を与えるも のではないであろうか。

歯科に対する一般的なイメージは歯を抜く、削る、詰める、被せる、 など狭き口腔内の「歯に始まり歯に終わる治療」であるが臨床の現場で はこれらの他に身体との関連をうかがわせる様々な事例に遭遇すること はよくある。
最初の頃は不思議と思っていたが、経験を重ねてきた今ではそれは不 思議なことではなく、しごく当然のことであると自分なりに受け止める ことが出来きてきた。
おおまかではあるが、目的をもった歯科治療後、俗に言うところの不 定愁訴(頭痛、肩こり、腰痛など)が改善もしくはほぼ解消された症例 には良く出会う。他にも視力や聴力、鼻症状などの顎顔面領域から不妊 症の改善にも良く出会う。これらは実際に私が経験している。
もちろんこれらの作用機序がどのようなものであるかは明白なことは 不明である。エビデンスは確立されていない。今後も難解過ぎていつま でも確立されないであろう。
ただ言えるのはヒトは重力の影響を想像以上に受け二足歩行をし、神 経系中枢が低位より構造上頭部という高位に存在させるがゆえに非常に 不安定な状態となり、頭位の傾きにより咀嚼や嚥下時などの咬合時に視 床下部への刺激も不安定になりやすく、また重い頭部を支える筋肉群や 仙腸関節までを含む背骨、つまり姿勢に影響されやすい生物であると考 えている。頭部を安し支えるために最も重要なのが咬合位である。咬 合位を決めるのは歯の存在ある。これが大きく左右するものと考えて いる。

歯科に訪れるほぼ全員は歯科以外の身体の症状は切り離して考えてい る「歯がずきずき痛い!」と言って来院する患者さんが大部分である。
ほとんどの歯科医も同様である。歯科領域以外の病状の把握はこちら からアプローチしないと最後まで不明な点が多い。また話したがらない 場合も多い。
目的をもった歯科治療が進むにつれ、歯科医との信頼関係が築き上げ られてくると「実は~」という場合も多いが、そのころには目的を持っ ていない通常の、ごく一般的な歯科治療がほぼ終了の段階にかかってい るので最初からやり直すことも出来ずそのまま終了してしまうことも残 念ながら多い。
歯科医側にも歯科領域以外はまったく情報に興味ないといった態度で あればいつまでたっても歯科以外の情報は入手できない。まずは歯科医 側の考え方も少しは改める必要があると考える。

歯や舌などを含む口腔は消化器官の入り口であり、食べ物を口腔内に 取り込み 咀嚼させ、唾液と混ぜあわせ嚥下。胃や腸で分解、消 化、吸収させ人体に必要な栄養素を取り入れる。そのなかでも歯はとく に大切な器官である。
野生動物は歯がなくなれば それはすなわち死を意味する。ヒトの場 合は歯が無くなってもそれは死を意味するということはないが、ヒトが ヒトとして健康的に日常を送るうえで歯はこの上なく大切な器官であ る。それは単に咀嚼器官という狭義の枠を超えるところが多々あると私 は考える。
「噛めば噛むほど脳に刺激が行き認知症の防止になる。」
「唾液には消化を良くする作用があり、さらに抗がん作用も含まれ る。」
「歯周病は心臓病や糖尿病、がんなどの病因のひとつ。シンドローム (症候群)である。」
「口腔内を清潔にすることが肺炎、特に誤嚥性肺炎を予防するうえで とても大切である。」
「同じ栄養価を点滴摂取する場合と経口摂取するのとでは、その吸収 に大きく差が出る。」
これだけでも歯科はカラダは非常に関連性が高いと思われる。
「今わたしは心臓の治療を受けています。アテローム型の心筋梗塞や 脳梗塞にならないか心配です。予防のために歯垢や歯石を取ってもらい に来た。」
「おじいさんが最近認知症気味です。おじいさんの入れ歯はちゃんと 噛んでるか診て欲しいので来た。」
「最近血糖値が高めです。歯石が付いていれば取ってほしいので来 た。」
「おばあさんの誤嚥性肺炎が心配なのでブラッシング指導を受けに来 た。」
さらに「最近肩こりがひどい。」
「頭痛がひどい。」
「腰痛がひどくて。」
といった主訴が将来歯科医院受診の動機として珍しいことではない時代 がきてほしいと私は考えている。
私自身、日頃から薬やさまざまな不定愁訴の改善の治療方法のほかに 歯のことも考えられることを患者さんに機会があれば提案している。

私はカラダの治療や健康を保つための選択肢の1つとして歯科 も参加協力する「歯科医院受診」が自然に挙げられる時代がきてほしい と思っている。もちろん「歯を治したからなんでもかんでもすべてきれ いに治る」ということではなく「その疾病に対する選択肢の1つ に歯科も」という位置づけである。全身を見据えた歯科医の咬合調整が 一般的になる社会の到来を望んでいる。

「あ~手がしびれるんですね、一応検査しましょう。」
「検査しましたが特別これといったところはないです。一応クスリを 出しておきますが歯医者さんにも行かれてください。」と自然と口に出 てくるメディカルドクターが多くなる時代。
「最近皮膚の状態がいいですね あれほどひどかったのがかなりよく なってる こちらでも塗り薬はお渡しますが歯医者さんも継続して通わ れて下さい。」
「お二人とも検査に異常はないです。もちろん私の方でも不妊治療は 継続しますが、並行されて歯医者さんで噛み合わせをみてもらってくだ さい。」
整体やカイロで「それじゃ今日はこれで終わりです。ご自宅へ帰るま えに歯医者さんで噛み合わせをみてもらってください。」
鍼灸で「針が入って行かないほど筋肉が鉄板のようになってます。こ れじゃどうにもならないので一度歯医者さんに行ってきて下さい。」

日本の医療費はやれパンク寸前だとか破滅直前だとかこれらを理由に 医療費高騰を抑えるためあの手この手の「削れ!削れ!」の大合唱の 中、このような医科ー歯科が連携を今よりもさらに深めることができる 時代が来れば、もしかしたら国が目指すところの医療費の削減にもつな がるかもしれません。

咬合不調のある方は身体の不調、とくに不定愁訴も患っている場合が 多いと思われる。特に智歯が萌出している場合やCやP、 Perなど状態の歯を放置している場合はなおさらである。上記理由から も早期に治療するべきである。
歯も身体の一部である。歯もチューンアップしてあげることが身体に とても大切なことであると考えている。

医科ー歯科のより深くも身近な連携のためには、最も身近な出身大学 の同窓もしくは所属医師会、所属歯科医師会は当然ながら医科別もしく は歯科別の集まりであるのでお互いのそれ以上の交流発展は難いと思わ れるが、成医会では医科と歯科の集まりであるので医科は医科、歯科 は歯科といった垣根を越え、お互いに情報交換、更には自分の活躍する 地域における連携へと発展が期待できる可能性を持つと期待し今まで以 上に深い交流を望みます。

この分野は様々な意味でデリケートな分野でもあります。概念も難解 です。
歯科の先生、医科の先生でご興味のある先生方がいらっしゃいました らお気軽にご連絡下さい。